群像劇【ライティング・マラソン11】

実行犯の吉崎茂雄(54)は、ふたご座で趣味は園芸、休日はたまにゴルフに行き、運動不足を解消し、大自然に囲まれた上に運動もできていいななどと小市民的感想を抱き、家に帰って、夫婦の会話もないままにビールを飲んでいたが、一方そのビールを製造している工場では、パートの検品担当松田美子(27)が、今日も気だるそうに形崩れしてしまった缶がないかどうかを、妙齢の男性を眺めるかのように見やっている、しかし、実際に妙齢の男性を眺めるときの目とは、あれは5℃ほど違う、と出入りの運送屋であり妙齢の男性である木嶋義男(25)は思っていて、あんな目で見つめられちゃあ、ビールもぬるくなっちまう、などと友人の中須翔(25)に嘯いているが、中須は小学校のころからの木嶋の友人であり、お調子者の木嶋のことを憎からず思っているが、女に惚れやすい木嶋の恋愛沙汰に関しては少々食傷気味であり、5℃ほどのお熱で済めばいいけどな、と内心肩を竦めながら木嶋の話に頷いているが、同時刻スロヴェニアで肩をすくめていたのが、ヘンリー・ガードナー(34)で、ガードナーはヨーロッパの歴史に興味を持ち、二日前にスロヴェニアについたのだが、ちょうどその日、ガードナーがスロヴェニアの空港に着いたその瞬間、長野の前城医院で土方悠理(0)がいままさにうまれようとしており、看護師の江原佐江(21)は母親である土方裕香(21)に「ヒッヒッフーですよ!土方さん!もう少しですよ!」と呼びかけていたが、つい4時間ほど前には、この自分よりも若い妊婦が、面構えの良い旦那さんと思しき人を連れていて、非常に腹の虫の居所が悪かったので、タバコを2本吸ったが、その腹の虫である、タケノリ(仮)(年齢不詳)は非常に楽しくやっていた、どうやらこの宿主は、非常に食生活が乱れており、腹の虫であるタケノリ(仮)にとってはまさに楽園という場所だったのだ、なにせ毎食ごとにジャンクな食べ物ばかりだし、間食ももれなくついてくる、昨日などスーパーカップ(味噌)、スーパーカップ(豚骨)、うまい棒(めんたい)うまい棒(コーンポタージュ)どん兵衛(たぬき)うまい棒(たこやき)だった、カップラーメン多いな、と思いながらタケノリ(仮)はこの快適な生活を楽しんでいたが、江原はなんとかこの食生活を変えたいと思っており、明日からダイエットをするんだぁ、と一平ちゃん屋台の焼きそばを食べながら、同僚の小島晴香(20)に宣言しているが、小島はまだ新人なので、先輩に対して面と向かって反抗することができずにいるが、一平ちゃん食べながら言うことじゃねえだろデブ、と思っている、小島は元ヤンだったのだ、地域一番のレディースだった小島は、長髪金髪ウェーブパーマそしてマスクと時代を間違えたかのようなスケバンルックで、地元牛久で10代の青春を駆け抜け、「鉄パイプのおはる」という名に震え上がらなかったものは牛久大仏以外にいない、と恐れられたものだったが、その牛久大仏(1992〜)は、ブロンズの立像としては世界最大であるものの、世界の立像の高さとしては、第3位に甘んじていることをあまり快く思っていないのだ、牛久大仏が256回目くらいの不快感を抱いているときに、インドの聖者がひとり悟りを開き、地面では花が咲き、恋が実り、恋が破れ、アイドルが卒業を決意し、宝くじがあたり、はずれ、積年の念願であった新築のマイホームを手に入れ、靴下を脱ぎ、ニコ生主と交流をし、ビルから身を投げ、ご飯を食べ、離婚をし、親権を手に入れ、一方会いたいけど会えない吉崎は、吉崎菜絵(18)をシャバに出たあともずっと影から見送り、少ないながらもしわくちゃになったお金を娘のためにと送り続けている、そのしわくちゃの封筒をつくった人もまた、靴下を脱いでいるのだ。靴下を、脱いでいる、のだ。そしてその時、靴下もまた脱がれていた。脱がされるがままになっていた。

 

(1610字・25:12)